2015年07月15日

桃の体温

 期末試験のあいだに夏風邪をこじらせ、姉に仕事を休ませてしまった。情けないがぼくには粛々と寝ているしかできない。
 姉の手には白桃があった。果物ナイフを寝かせて皮を剥いている。
「周くんが買ってきてくれた」
「義兄さんが?」
「春彦はきっとこれが好きだから、って」
 切り分けられた白桃に楊枝をさす。口へ運ぶだけで指や口のまわりが果汁だらけになった。剥いているあいだに外気や姉の体温を吸ったのだろう、とろりとした果肉にふさわしくわずかにぬるくなっていた。剥いてくれた人の温もりごと食べているようだった。
「おいしい」
 冷やしすぎるより甘さが際立つ。義兄もまたこれが好きなのだろう。そう確信してぼくはすべてを平らげた。


posted by くまごろう at 16:22| その他SS | 更新情報をチェックする
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